そこには、君が





「でも今日は楽しかったよ、すっごく!」






どうにかしないと。


そう思って私は必死に明るく努めた。


もう遅い。


そんなこと、分かっていた。








「ありがとう」








徹平は私に感謝を述べたけど、


本音はもっと別のところにあるのは、


痛いほど伝わった。


実際に大和と何かあったせいで、


こんなにも後ろめたい気持ちでいっぱいだ。


本当だったら徹平に触れたり、


手を繋いだり、それこそキスをしたり。


徹平で始まり、徹平で終わる。


そういうつもりだったのに。


今日だけはそうしてはいけないと、


私の中のもう1人の自分が危険信号を出していた。









「じゃあ、帰るね」







「こ、今度は私の家で、あの…っ、」







それはまるで、


言い訳をしているみたいだった。


私の焦り様がどう伝わったか分からない。


徹平はクスッと笑って、


私の頬に手を当てた。









「明香、好きだよ」








好きだよ、に。


私も、と答えた。


と思う。









「気をつけてね」








好きなのに。


この人を愛しいと思うのに。


伝えてはならない気がした。






< 147 / 325 >

この作品をシェア

pagetop