そこには、君が
「ジャケット、返さなきゃ…」
徹平を見送り、エントランスを抜け、
エレベーターに乗り込む。
とりあえず大和の親の車がないのは
確認済み。
きっと1人で寝転んででもいるだろう。
私は大和の家の階へ着くと、
そのまま上着を脱ぎながら大和の家へ向かった。
「大和、いる?」
おーい、と。
何回も声をかけたが、返事はない。
出てこないのはいつものことだけど、
返答くらいはあるのだけれど。
おかしいな。
「お邪魔しまー…す、」
勝手に上がろうとヒールに手をかけた時。
視界に入ったのは、小さなパンプスだった。
それは見たこともない、可愛らしいもの。
ヒールを脱ぎ、玄関を上がると。
廊下にある大和の部屋が珍しく明るく、
光が溢れていた。
どうやら扉が少し、開いている様だ。
「お願い、大和くん」
か細い声が耳に届いた。
覗く趣味なんて、私には無いが、
堂々と出て行く自信もなく、
廊下から少しの隙間に目をやった。
立っている2人が見える。
どうやら距離は近いらしい。
「ばか言うな」
「ねえお願い。少しでいいから」
ただ立ち尽くす大和と、
大和の服の裾を引っ張っている、
さっきの女の子がいる。
何を話しているかは分からないが、
女の子を見つめる大和の瞳は、
とっても優しかった。
「もう耐えられないの」
「今だけだろ」
「違う。違うよ…」
女の子は、どう見ても可愛い。
女の私でも、手を出しそうだ。
2人の話に聞き耳を立てながら、
その場から動けずにじっとしているしかなかった。
ただその最中、心は穏やかではいられなかった。
「大和くん…」
女の人は大和の名を呼ぶと。
小さな体を背伸びさせた。
パキッ。
音が鳴った。