そこには、君が
「明香」
低く聞き慣れた大和の声にすら、
落ち着きを覚えた。
理由なんてなくて、
ただ心が弾んでいた。
「ココア、飲む?」
目を開けるとそこには月の光だけがあって、
薄暗い中にいる大和は少し男らしく見えた。
その瞬間、なぜか意識してしまって、
目を合わせることが出来なかった。
マグカップにお湯を注いでいると、
大和が側まで近付いてきた。
「明香」
「危ないから、待って」
私の手首を掴もうとするも、
寸前で静止させた。
何だか怒られた大型犬みたいで、
心の中でクスッと笑った。
「はい、ココア」
飲むでしょ?と差し出すと、
黙った受け取り黙って口に運んだ。
大和が今から言おうとする言葉を、
消し去るかのように、
私は話させたくなかった。
怖くてたまらなかった。
「もう飲んだら帰りなよ」
「いや帰んねえよ」
「もう何かどうでもいいからさ。聞いてもほら、私には関係なっ…」
いつも大和は、
私に最後まで話させてはくれない。
気付けば手を引かれていて、
いつの間には大和の腕の中にいる。
だけど今日はとても都合が悪い。
なぜなら、私が、ドキドキしているからだ。
「離して」
「無理」
「早く、離して」
「あの女は、」
不意をつかれた。
そして聞かされた答えは、
拍子抜けするほど、
笑える回答だった。
「先輩の彼女」
「…ん?」
「だからいつも面倒見てくれてた先輩。覚えてるだろ?中学の時からつるんでた人」
大和が世話になった人なんて、
星の数ほどいるから、
一瞬では名前が出てこない。
動きを止めた私を見かねてか、
大和は先輩の名を出した。