そこには、君が
「あ、思い出した。…でも、なんで先輩の彼女が、大和と?」
「今入院してんだ。怪我したみたいで」
経緯を話してくれた。
どうもその先輩が揉めたらしく、
喧嘩の末、全治1ヶ月の怪我を負ったそう。
その先輩は確かすごくいい人なんだけど、
揉め事にも巻き込まれやすいタイプ。
結局そのとばっちりが彼女に当たらないように、と
大和の傍にしばらく居させて欲しいと
お願いされたそうだ。
「そんなの、信じられない」
「嘘言ってどうすんだよ」
「だって…キス、してた」
「してねえ」
間髪入れない返答と同時に、
大和は私の頬を摘んだ。
痛みを感じるはずが、
頬が綻んでいた。
「ま、嘘付きになりたくねえから、正直に話すと、」
子どもをあやすように身を屈め、
目線を合わせてくる。
逸らすことを許されず、
目の前の大和と目があった。
「先輩と付き合うの疲れたから、俺に慰めろって。あの女から、キスはしてこようとはしてたっけな」
底意地の悪い、憎い笑みを浮かべ、
私の額を思い切り小突いて。
「これが真相。どうだ、嫉妬したか?」
嫌味みたいなセリフを吐いた。
腹が立つ。
何に腹が立つかって。
こんな自分勝手な男に振り回されている自分が。
そして、私を見透かしているような、
この男が。
「する必要ないし」
「あ、そう。じゃあ呼び戻して、」
「待っ…て」
条件反射だった。
別に嫌だとかそんなんじゃない。
けど状況的に、なんか、
止めた方がいいかなって、
思っただけなの。
「呼び戻すのは、しなくていいかなって」
顔が見れなくて俯くと、
頭上でふーん、とどことなく
陽気な反応を見せた。
そして何も言わずに私の腕を引き、
ソファに座った。
暗闇の中に月明かりだけが差し込んで、
ただ何も言わず、無言で同じ方向を
向いて座った。
その時私は、ふと思った。
何が居心地を良くさせるんだろう、と
本気で考えた。
そしてたどり着いた答えは、音だった。
大和といる時の音が好きだ。
何も聞こえない。
けれど心地のいい音が聞こえる感じ。
それが、たまらなく私を惹きつける。
それだと分かった時、
隣にいる大和に触れたくなっていた。