そこには、君が
「今日、20時からバイトだって言ってたよね?」
「そうだね。頼まれちゃってさ」
元々今日は徹平の都合で、
そこまで長くいれない予定だった。
だから寂しいとかはないんだけど、
でも家だということもあって、
どこか緊張していた。
時計を見るとお昼過ぎで、
昼食時だった。
「お昼食べた?」
「まだ。お腹空いたな」
「私さっきお買い物してきたから、何か作ろっか?」
リビングに座る徹平にそう問うと、
超絶嬉しそうな顔をして私を見ていた。
そして子どものように両手を上げて、
はしゃいでいた。
こんな些細なことで喜ぶ人が、
女の人を弄ぶなんて出来るはずがない。
困ってる人を助けたり、
支えたりしてくれる人だ。
「美味そう…」
「自信ないけど、前好きだって言ってたから」
いつも食事を作るのは大和相手だから、
何も気にしていない。
何なら彼氏に作ることが初めてで、
変に緊張して少し焦がしてしまった。
「いただきます!」
私の手料理なんていつでも食べられるのに、
一粒も逃さないようにと大事そうに
食べてくれる。
一口食べるたびに感動してくれるし、
美味しいなんて、もう何十回も聞いた。
「明香の手料理食べられるとか、幸せすぎる」
「そんなの、いつでも作るよ」
いつでも、と言う前に息を呑んだ。
無責任なことを言ったことは分かってる。
いつでも、なんて。
何の根拠があって言ってるんだ。
「映画でも見よっか?」
「言ってたやつ、借りてきた」
新作がレンタルされたことを知った時、
お互いが見たいと思っていた映画。
付き合ってすぐくらいの時に、
一緒に映画に行こうと言って
結局違う映画を見たことがあった。
「手、繋いで見よう?」
「うん、いいよ?」
座り慣れているソファに、
慣れない人が隣にいる。
この空間に私たち2人だけだと言うのに、
徹平はキス1つしてこない。
少し体を寄り添わせ、
空いた手で用意したお菓子を
お互い食べる。
まるで手作りの映画館に来たみたいに、
静寂な空間に、それぞれの時間を過ごした。