そこには、君が
そんなこと、ある訳ないのに。
私の好きな音が、好きなリズムが、
耳に運ばれてくる。
私があの頃、大好きだった、
ボールの音が、
間違いなく聞こえてくる。
「終わっちゃった〜」
気付けば映画は終わりを迎え、
エンドロールが流れている。
もう終わりか、と思いながら、
感想を述べている徹平の言葉なんか、
耳に入っては来ない。
「じゃあ、そろそろ行かなきゃ」
「あ、うん。もうバイトだもんね」
動揺した。
けどきっと、
私の聞き間違いかもしれない。
もしかしたら、立ち寄った人が、
使ってただけかもしれない。
そう思うことにした。
そんな訳ない。
そうとしか考えられなかった。
「ねえ、凛」
「ん?どうした?」
徹平と会ってから1週間。
理由はあまり聞いていないけど、
会えない日々が続いていた。
1週間会わないことなんて、
あまりなかったから、
私は気が気でなくて不安だった。
「春太さん、元気?」
明日から3年生となり、
学校が始まる。
せめて春休み最後の日くらい、
楽しく過ごそうと凛が私の家へ
来てくれた。
「んー、元気じゃないかも。あのニュースのせい」
「…やっぱり」
お菓子を口にしながら、
憂鬱な気分の私たち。
うわの空な私をじっと見ると、
言いにくそうに凛は私を呼んだ。
「明香、あのさ」
目は合っていないけど、
凛の醸し出す空気が、
すごく重かったせいで、
何となく良い話ではないことが
伝わってしまった。
「結局あのニュースのこと、徹平さんと話したの?」
「…してない」
しようとはした。
だけどあの映画を見た日以来、
会えてないのだ。
あの日の帰り。
ニュースのことを言いかけて、辞めた。
というより、言い出す勇気がなかった。