そこには、君が
お昼過ぎ。
予定通り、徹平が家に来ることになっている。
いつものルンルン浮かれた私はいなくて、
重い空気を1人で背負っていた。
まだ確定ではないにしろ、
不安材料が手元にあるだけに、
手放しで平然といられるほどの余裕はない。
いつも以上にソワソワしながら、
徹平が来るのを待った。
お湯を沸かし、スリッパを並べ、
無駄に掃除をした。
時間を確認する度に携帯を見ると、
待ち受けに映る徹平の後ろ姿に、
思いを張り詰める。
本当にこの人が?
そんなはずはない。
そればかり考えて、
頭から離れなかった。
「明香、ごめん。少し遅れた」
「来てくれてありがとう」
徹平が来たのは約束の20分後。
遅れると連絡があったのは、
約束の時間の30分も前だった。
「昨日美味しそうなアップルティー買ったんだ。飲む?」
「うん。飲みたい」
徹平の手にはコンビニの袋が下げられていて、
中には私が大好きなお菓子が入っている。
好きでしょ?と聞かれ、頷きながら、
心が痛くなった。
中には私が言ったか言ってないかの記憶しか
ないような物まで入っていて、
内心驚いていた。
些細なことでも、覚えていてくれる。
徹平はそんな人だった。
「どう?いい香りでしょ?」
「うん。絶対忘れられない」
徹平は目を閉じて、
静かにカップを口に運んでいる。
アップルティーの香りが部屋に充満し、
まるで私たちを包んでいるかのようだ。
いつもに増して口数が少ない彼に釣られて、
私も口数が少なくなる。
ソファに並んで座りながら、
静かに手を繋いでいた。
力強く握る徹平の手が、
心なしか震えているようだった。