そこには、君が
「お菓子、食べよっかな?」
「うん。食べよう」
キッチンに置いたままのお菓子を取りに
ソファを立つ。
その時、ポケットに入れていた携帯が、
音を出さずに震え始めた。
画面には、京也の名前。
出るべきではないと思い、
その着信が切れるまで画面を眺めると、
切れた時に表示されていた着信の数は
全部で14件。
中には大和の名前まであって、
これはきっと2人して怒っているやつだ。
間髪入れず、また京也からの着信。
私は仕方なく、通話をする覚悟を決め、
携帯を耳に当てた。
「もしも…」
『出た。もしもし、明香?なんで電話出ないの?何してるの?てか、今どこ?』
待ってましたと言わんばかりに、
言いたい用件を全て口にしたのか、
京也はとても早口で、
よく噛まずにそれだけ話せたなと
感心するほどだった。
「ごめん気付かなくて。今、家にいるよ。徹平が来てるから、」
『今家にいるらしい。男来てる、って、おい大和…!』
京也が大和の名を呼ぶと、
きっと電話の向こうで携帯の取り合いが
あったのか、貸せと大声で怒鳴っている男がいる。
受信音を下げないと聞こえてしまうんじゃないかと
思うくらい、奴らはうるさい。
『そいつを今すぐ追い出せ!』
「ちょっ…!何よ、いきなり。何で…」
『あれほど言ったのに何でお前は言うことを聞かない!頼むから、今すぐ!』
大和が怒っている。
その横で京也の声も聞こえ、
大和に賛同しているようだ。
長い電話に何事かと思っているのか、
徹平もソファから私を見ている。
私は1人、内容が聴こえているんじゃないと、
ヒヤヒヤしながら受信音を最小にした。