そこには、君が
「ちょっと、今大事な所だから、無理だよ」
『大事な所?無理じゃねえ!お前、どういう状況か分かってんのか!おい、明香!』
そんなに怒られても、
どうしようもないし。
第一、徹平と関わっているのは私なんだし、
大和と京也が怒ったって仕方ないじゃん。
電話の向こうで相変わらず怒鳴っている2人を、
私は無視することに決めた。
そして何も言わず、通話を切った。
私だって、怖い。
今から何を言われるかなんて、
予想にもしていないんだから。
だけど。
聞かなくちゃ。
私が自分で好きになった人だから。
ちゃんと自分の耳で、知らなくちゃいけないんだ。
「電話、大丈夫?」
「う、うん。いつものことだから」
いつものこと?と首を傾げる徹平に、
大丈夫だよと、買ってきてくれた
お菓子を差し出した。
「食べよっか」
お菓子に目をやりながらも、
意識は徹平に。
どう切り出そうか。
そればかりに意識がいって、
上手くお菓子の袋が開けられなかった。
「明香」
徹平は、優しい声で私を呼んで、
お菓子を持つ私の手からお菓子を取ると、
そっと机の上に置いた。
そして何も言わずに静かに私に体を向けると、
おいでと包むように私を抱きしめた。
動揺している私を見かねたのだろうか。
徹平がくれるその優しさが、
少なくとも私を私を追い詰めた。
「今度の休み、また旅行に行きたいね」
「…うん」
「温泉もいいけど、キャンプとかも良くない?」
「…うん」
頷きの初めに躊躇いがあった。
徹平の腕の中は大好きな場所だったし、
安心出来る場所だった。
ドキドキして苦しかったし、
守ってあげたいとも思っていた。
「…話そう、明香」
「…うん。話そっか」
きっと察してくれた。
私から言わなきゃいけないのに、
徹平に言わせてしまった。
それが申し訳なく感じ、
徹平を直視出来なかった。
「何でも話すよ」
私から身を離すと、
びっくりするほど穏やかな顔で、
私を見つめている。