そこには、君が







そして少し笑って目尻を下げると、


私の頬に少し触れ、


愛しそうに撫でた。







「ニュース、の、こと…本当?」






私は言葉を発しながら、


体が固まっていくのが分かった。


怖い。


そう思ったら震えも出てきて、


止められない。








「どこから話したら伝わるか、分かんないんだけどね」






一呼吸置いて、ゆっくり話した徹平は。







「質問の答えを先に言うとしたら」






嘘がない目をして私を見て。







「あのニュースは、本当のこと」







私の質問に否定をしなかった。


嘘を付くことも騙すことも出来たのに、


そんなことは一切せずに、


はっきりと本当だと言った。







「じゃあ、売春…とかも、本当、ってこと?」







途切れる私の声が、


徹平を遠ざけていた。


いつもはピッタリと引っ付いているのに、


私は話をしながら少し遠ざかった。


その様子に気付いた徹平は、


俺が動くよとソファを離れ、


少し離れた壁際に腰を下ろした。










「全部、ちゃんと話すね」






アップルティーを最後まで飲み干すと、


徹平は何から話そうかと、


頭を悩ませている。


私は言葉を待ちながらも、


きっと単純なことだろうと、


軽く考えていた。


この時、徹平が味わったことなんか、


頭にもなく、想像すらしていなかった。








「俺には絶対逆らえない相手がいました」







その人は2つ上の先輩で、


周りの奴らを従えている強い人だった。


その人は昔から面倒を見てくれていた人で、


どんな時も着いていくと決めた人だった。


大学に入った時、徹平には1つ下の彼女がいた。


その人は物凄く可愛い人で、


みんなが羨む相手だった。


徹平もずっと好きで、高校2年生の時から、


告白し続けてやっと付き合えた彼女だった。


付き合ってから1年した時、


その先輩に彼女を好きになってしまったと言われた。


絶対渡したくないと思ったけれど、


どうしても好きだと言われ、


先輩にならとその彼女を任せることにした。


その彼女も先輩に懐いていたし、


冷たくし続けた徹平と引き換えに、


優しい先輩に惹かれることに時間はかからなかった。


形的には徹平と別れる前に先輩との関係があり、


浮気みたいな感じだったが許すしかなかった。


今思えばこれが悲劇の幕開けだったと、


徹平は言った。









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