そこには、君が
「どうして、その彼女を先輩に渡したの?」
だって、どうしても好きなら、
いくらお世話になったからといって、
譲る譲らないの問題ではなくなってくる。
「そうだよね。どうしてだろうって、今でも思うよ」
そこから話す話は、
そんなことこの世にあるのかと
思うくらい、壮絶だった。
「ところがある日、その彼女がアザを作って俺の所に来てね」
助けを求めてきたその子。
徹平は何事かと事情を聞くと、
その先輩に殴られたと言う。
あんなに優しくてみんなに慕われる先輩が、
そんなことをするはずがない。
ましてや、今は自分の彼女ではない。
そう思った徹平は、そのまま、
その子を先輩の所へ戻したのだ。
が、次の日も、その子は泣きながら、
徹平を訪ね、助けてほしいと言う。
これは只事ではないと話を聞いているうちに、
段々先輩の裏事情が明らかになってきた。
暴力が日常にあり、絡んでいる人も、
怖い人が多い。
喧嘩はしょっちゅうしているし、
お酒を飲むと人が変わったみたいに
その子を殴るのだ、と。
話を聞いているうちにその先輩が
家に乗り込んできた。
彼女は渡せないと立ちはだかったが、
先輩は関係ないと徹平を殴った。
そしてその彼女は力づくで連れて行かれ、
徹平は見ているしかなかった。
「俺はどうにかしてその子を守らないとって、必死に考えたんだ」
考えた末に、先輩にお願いするしかないと
思いついた徹平は、その先輩がいる所を探し、
頭を下げに行った。
そこにいた彼女はもう昔の面影はなく、
可愛い笑顔が1つもない。
徹平を見る目に色がなくて、
どうにかして助けないと思った。
その先輩もまた、徹平が知っている姿ではなく、
優しいとは真逆の雰囲気を醸し出し、
喧嘩の強そうな人を従えていた。
そして先輩は、その彼女を助ける代わりに、
と交換条件を出してきた。
「交換条件?」
「うん。女の人を10人、俺に寄越せって」
想像以上の条件に、私は言葉が出なかった。
けれど、きっとそれが、今回のニュースに
繋がっている出来事だというのは、
何となく察しがついた。
「でも俺が全部間違ってたし、正しいことなんて1つもなかった」
後悔という言葉が当てはまる。
徹平は悔しそうに顔を曇らせながら、
必死に当時のことを語ってくれた。