そこには、君が








「その日から何とかして女の人をと思って、いっぱい誘いまくった」







お酒が飲める場所に行っては、


言い寄ってくる女の人を手当たり次第に


先輩に会わせる。


そして気に入った女の人は、


自分の手元に置き、


気に入らなかった女の人は、


周りの男の人たちで廻した。


そして何十人と先輩に女の人を献上した結果、


彼女は解放され、徹平は女を献上し続けろと


脅された。


そしてもっと最悪な事態となり、


その彼女は精神を壊して今でも入院し続けている。


会うことも出来ないし、


話すことすら出来ない。


そして、大学3年生になった頃。


俺はその先輩に用済みとなったのか


連絡が途絶え、平穏な日々が戻った。


そして私と出会い、好きになって、


付き合うことになった。







「だけど、用済みになったわけじゃなかったんだ」







徹平と付き合った私のことを、


その先輩は見たらしく、


1年半ぶりに連絡を寄越した。


そして一言。


彼女が欲しい。


そう言われたそうだ。








「え、私…?」






「うん。ごめん、実は巻き込んでる」







思考が働かなくなって、


身動きも取れなくなった。


今まで他人事と思って聞いていたが、


まさか自分の名前が出てくるなんて。









「それで、どうなったの?」






「もちろん断ったよ。断ったというか、拒否した」








怖いという感情なのか、


憎いという感情なのか。


私は正体が分からない感情に、


飲み込まれそうだった。








「きっと、よほど俺に腹が立ったんだろうね」







今回のニュースは、


その拒否が原因だと思う、と。


徹平は淡々と口にした。


ということは、


ニュースで言われている


事件の首謀者は、


徹平ということになっているのか。









「こんな奴で、本当ごめん」








徹平は深く頭を下げた。


謝る姿がどこか寂しそうで、


切なくて苦しい。


自分の名前が出ていたのに、


危機感すら感じていない私は、


どこか他人事だった。









「過去のことだって割り切りたいけど。…でも、」







徹平が私を前の彼女と同じ目に


遭わせないように、と


考えてくれたのはとても嬉しい。


そこから反省をしていることも窺える。


だけど、その人は?


どうしてその時、判断出来なかったの?


何で危険だって、思わなかったの?


好きな人だったのに、


人に委ねられる存在なの?


私は徹平の過去を受け入れようとすれば


するほど、困惑して、嫌気がさした。








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