そこには、君が

さん






雨が窓を伝っている。


着替えを済ませ、リビングで


時間が経つのを待つ。


そこから見える外の景色は曇り空で、


何とも寂しい気分になる。


時計に目をやるともうお昼を過ぎていて、


自分の気持ちとは裏腹に世間はいつも通り


時間が過ぎているのだと感じた。







「お腹空いたな」






起きてから何も食べていない私は、


昨日大和にもらった新作品のお菓子を


食べることに。


口に広がる甘さが私を支配して、


お腹が満たされる気がする。


そして待つこと1時間。


時計が14時を示した時。


携帯がメールの受信を知らせた。


恐る恐る手を伸ばすと、


そこには徹平の名前が出ていて、


電話をかけてもいいかと尋ねる内容だった。


即、了承した返事を返すと、


それから数秒経って携帯の着信音が鳴った。


息を呑んで、数秒待ってから、


意を決して電話に応答することにした。







「もしもし」






『電話、出てくれてありがとう』







顔が見えないからか。


心なしか寂しそうな中に、


強い意志があるような、


そんな第一声だ。







「ううん。こちらこそ、ありがとう」







そう言ってから少しの沈黙。


私は何も話せなくなって、


黙り込むしか出来なかった。


気まずい空気の中、


それを壊したのはもちろん徹平で。








『俺がしてきたことの重さを、明香に教えてもらった』






「…私?」






『人の守り方を俺は間違えたんだ』







徹平は続けて、自分のことを責め続けた。


自分がしたことの過ちを認め、


悔い、責め続けていた。


きっと徹平は、ずっと苦しんでいたんだ。


それが痛いほど伝わるから、


私も苦しくなった。







『俺、この電話が終わったら自首するよ』







自首という聞き慣れない言葉が、


事の重さをより理解させた。


つまり、自分から警察へ行くということだ。








『明香に出会って俺は救われた』








本当に幸せだった、と。


徹平はそう言う。


私だって、幸せじゃなかったわけじゃない。








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