そこには、君が
『こんな事言うのは間違ってるかもしれないけど』
少しの溜めが空気を沈ませる。
私の鼓動が電話越しに伝わるんじゃないかって。
『本当に好きだった。明香の事が、可愛くて仕方なかった』
急に涙声になる徹平が分かったから、
それが伝わって私を鼻の奥が痛くなった。
電話の向こうで泣いている徹平を、
私はもう慰めてあげられない。
『いっぱい傷付けてごめん。こんな奴で本当にごめん』
「徹平、もういいよ…」
これ以上謝らせたって、
惨めになるだけだ。
それよりも早く罪を償って、
被害に遭った人たちに詫びてほしい。
「もう私は大丈夫だから。謝らないで。ね?」
私だって本当に好きだった。
出会えてよかったと、そう思ってる。
騙されていたなんて微塵も思わなかったし、
気づきもしなかった。
『全部正直に話させて』
徹平の口からは、
これまで自分が黙っていた事が
全て出てきた。
『まず初めて出会った時は本当に偶然だった』
凛に連れられて行った、
徹平のバイト先のBar。
初めて会った時、少し惹かれる感覚は
あって、だけど好きな人がいたから、
見ないふりをしてたんだっけ。
『一目惚れだった。この子をどうしたら振り向かせられるか。そればっか考えてさ』
一目惚れというワードに反応する。
そう言われれば、
私だってそれに近い。
徹平を見て気になったのは、
本当に出会った時だったから。
『公園にいる人を気になるって話。すごく興味があった』
「それで、どうしたの?」
『明香はその人を知ろうとしてなかったけど、俺は誰だかすごく気になったんだ』
小さな嫉妬心かな。
そう言う徹平は、
あの時を思い出しているような、
懐かしんだ声色で話を進める。
私も知らない公園の人に、
徹平が嫉妬をしていた。
その事実だけでも少し嬉しく思った。
『騙したことは本当にごめん。だけど、そうでもしないと絶対に手に入らないって、そう思って…』