そこには、君が
『まず初めて出会った時は本当に偶然だった』
凛に連れられて行った、
徹平のバイト先のBar。
初めて会った時、少し惹かれる感覚は
あって、だけど好きな人がいたから、
見ないふりをしてたんだっけ。
『一目惚れだった。この子をどうしたら振り向かせられるか。そればっか考えてさ』
一目惚れというワードに反応する。
そう言われれば、
私だってそれに近い。
徹平を見て気になったのは、
本当に出会った時だったから。
『公園にいる人を気になるって話。すごく興味があった』
「それで、どうしたの?」
『明香はその人を知ろうとしてなかったけど、俺は誰だかすごく気になったんだ』
小さな嫉妬心かな。
そう言う徹平は、
あの時を思い出しているような、
懐かしんだ声色で話を進める。
私も知らない公園の人に、
徹平が嫉妬をしていた。
その事実だけでも少し嬉しく思った。
『騙したことは本当にごめん。だけど、そうでもしないと絶対に手に入らないって、そう思って…』
たじろぐ徹平がこの後言った言葉に、
私は耳を疑う羽目になる。
一瞬意味が分からなくなって、
思考が停止した。
「私、徹平と出会って付き合うことが出来て、本当に幸せだったよ。嫌だったことなんて、1つもない」
本当の思いだ。
徹平が起こした事件なんて、
嘘だと思ってしまうくらい、
私にはとても優しくしてくれた。
旅行に行った時も、私のことを気遣って、
無理に抱こうとしなかった。
いつもいつも包み込むように、
私を大事に、守ってくれていた。
「事件のことも少し怖いけど。何より、嘘をついていた事が、1番許せないの」
どうしても受け入れられないのは、
事件のことじゃない。
人の守り方でも何でもない。
ついてはいけない嘘をついたからだ。
私にはその嘘が、何よりも悲しい嘘だった。