そこには、君が
『うん、ごめん』
もう言い訳も何もしない徹平に、
私が言える言葉はない。
『明香の幼馴染くんに、昨日お願いされた』
「お願い?」
『俺が明香の家を出た後、追いかけてきたんだ』
そういえば、大和がいなかった時があった。
あの時、徹平の所へ行ってたんだ。
「なんか、言ってた?」
『明香と、別れてくれって頭下げられた』
実は初めてじゃなくてね。
徹平は淡々とそう言った。
初めてじゃないの?
そんなこと、1度も言わなかったじゃない。
「そんなこと…」
『彼の行動見てると自分が恥ずかしくなる』
「どうして?」
だって、と。
少し拗ねているような言い方をした。
『ああいう風に守るのかって。痛いほど思い知らされるから』
大和は、私を守っていたのに。
私は大和をあしらっていた。
うるさいと、聞こえないふりをし続けた。
恥ずべきは、私も同じだ。
『このまま終わると、期待してしまう…』
もう電話が終わりを迎えている。
それを察して、私は慌てた。
まだ伝えたいことがいっぱいある。
「私、徹平に会えてよかった。本当に、嘘じゃなくて。ちゃんと好きだった。大好きだったから…、」
この電話が終わったら、
徹平と話すこともなくなる。
私は決して徹平に、
傷付けられただけではない。
「だけど、私は意地っ張りだから。嘘が許せないから…、だから、」
これで、さようならだ。
そう感じながら、
涙が溢れた。
「徹平、私と、別れてください…っ」
涙を流しては、相手が辛くなる。
そんなこと分かっていたのに、
堪えることが出来なかった。
徹平といた日々は本当で、
好きだったことも嘘じゃない。
ただ、出会い方を間違えた。
きっと、それだけなんだ。