そこには、君が
「お先に失礼します」
片割れさんは、
みなさんに頭を下げ、
強引に私の手を引いた。
ご迷惑をおかけしました。
そう言いたかったのに、
この人の強引さで最後まで言えず。
フロアに戻っても、誰が誰で、
どの人が警察かも分からないまま、
お店の外に出た。
「家、どっち?」
「こっちです」
お店の外でそれだけ交わすと、
片割れさんは少しだんまり。
まだ引かれている手は、
ずっと温かいまま。
「名前…何だっけ」
「棚橋 明香です」
「俺、篠田 徹平。高校2年だっけ?」
「そう、です…」
あれ?そんなこと、
教えたっけ。
なんて考えていると。
「ごめん。実は、財布拾ったとき、中身見て…て」
「あ、なるほど。だから、高校生って分かったんですね」
すると、またごめんと謝る彼。
私はくすりと笑い、いいえと返した。
「あそこで働いてるんですか?」
「夜にバイトとしてね。普段は大学3年生」
4つ上の、人。
今まで出会ったことのない人。
こんな人、いたんだ、って。
そう感じさせる人。
「あの…てっ…、しの…」
「徹平でいいよ。明香ちゃんって、すげー分かりやすい」
私の横で意地悪く笑う彼を、
私はしばらく眺め続けた。
「徹平さん、は、柴崎さんと仲良しなんですか?」
「あいつとは中学からの仲だからね」
「柴崎さんも、3年生?」
「そう。あいつ、俺のマネばっかすんだよ」
なんて言いながらも、
少し嬉しそうな徹平さん。
「わ、私の家、ここなんです」
「え、ここ?」
「…?そうです、けど」
ふーん、と意味ありげな頷きを見せ、
また意地悪な笑みを浮かべる。