そこには、君が






5月、上旬。


連休最終日。






「凛、これいいんじゃない?」






「え!可愛い!絶対買う!」





明日に控えた修学旅行を目の前に、


凛と2人で買い物をすることに。


3泊4日の修学旅行の行き先は北海道。


実は飛行機に乗るのは初めてで、


少し緊張する。


その時、携帯が鳴った。






「凛ごめん、ちょっと待って」






ディスプレイを確認すると、


そこには大和の名前。







「電話?誰?」






「暴君」







ほら、と画面を見せる。


あー、と口角をあげて、


出なよと促してくれた。









「もしもし」





『どこ?』






「今、駅前通りにいるけど、」






『旅行用のアメニティ買うの忘れた』






きっとこの男は、


自分の部屋で寝転んでいるに


違いない。








「そんなの自分で買いに行けばいいでしょ」






『なんでも良いから買ってきて』







プツンと勝手に電話を切られた。


もう、本当に、腹も立たない。


いつものことなんだけど、


いつもの苛立ちが、無い。








「なんの電話だった?」






「買い忘れたもの、買ってこいってさ」







はあ、と溜め息をついて見せると、


凛は大声で笑った。


何を思って笑っているか、


手を取るように分かる。








「買っていってあげなよ」






「あー、もう。明日から楽しめるかな…」







大丈夫だって!と。


凛は私の背中を大きく叩いた。


私は、


明日からの旅行が、


不安で仕方なかった。







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