そこには、君が
「じゃあちょっと行ってくるね!」
「うん、また後でね」
小樽での自由行動。
凛は隣のクラスの子と少し回ることになり、
私とは離れて別行動をする。
私は、というと。
こういう時はいつも自然に大和や京也と
合流するのだが、今日に限っては、
何だか気が進まない。
自分から行くことが考えられないし、
向こうがどこにいるかも分からない。
とりあえずお土産でも見て時間を潰そうか。
どこへ行こうかと1人で考えていた時、
「あ!」と甲高い声が聞こえてきた。
「明香ちゃん!」
聞き覚えのあるその声は、
昨日同じ部屋で寝ていた女子たちだった。
そういえば、と昨日の記憶を思い出す。
明日話してみる?なんて、
気軽に言ったことが蘇ってきた。
「探してたよ〜!」
みんなキラキラした笑顔で私を見ている。
期待されている感じは半端ない。
「あ、京也たちだったよね!そうだそうだ」
忘れてたみたいな言い方をしてみるが、
正直少し面倒になってきて、
顔が笑えているかは分からない。
女子はうんうんと大きく頷いている。
私は今更何もできなくて、
仕方なく電話をかけることにした。
「もしもし、今どこにいる?」
『今、海鮮食べようと思って並んでるところ』
「あ、そうなんだ。今ね、クラスの女子といるんだけど、京也たちと話したいみたいなの」
女子の顔を伺いながら、
言葉を選びつつ京也に伝える。
きっと周りにも他の男子がいるのか、
ワイワイしている雰囲気だった。
分かった、と一言言うと思ったのに、
思いの外、低いトーンで。
『いやいいよ。大勢で行動とか面倒だし』
「え?何?あ、嬉しいって?」
否定をしてくると思わず、
用意していなかった展開に少し戸惑う。
そして思わず強引に押し切るような言葉を
言ってしまった。
『じゃなくて。聞いてる?』
「とにかく向かってるんだけど、どこのお店…あ、」
『…嘘だろ、まじ勘弁してよ。多くね?』
道路の向こう側。
男子たちと一緒にいる京也が、
携帯を片手に並んでいるのが見えた。