そこには、君が






「行くね」






『いや本当にいい。って明香さん、聞いてます?おー…』






通話は、言い終わる前に切った。


女子に目配せで京也を発見したことを伝える。


どうやら女子は京也だけがメインなわけでなく、


周りの男子とも話したいようで、


すごく嬉しそうだ。







「どうもです」






「どうもですじゃないよ明香さん」







丁度席に案内されるところみたいだ。


私は店員さんに追加人数を言うと、


強引に男子の群れと一緒に女子を入れた。


女子は私に手を合わせ拝むように礼を言い、


一緒になって店内へと入っていった。









「ふう…」







賑やかな女子から解放され、


一気にシーンとした。


私はどっと疲れて、店の前のベンチに座る。


ぐうううううう、とお腹が鳴った。


空腹を主張する私のお腹とは裏腹に、


解き放たれた緊張感が私の体に重くのしかかり、


その場から動けずにいた。








「何やってんだお前」







「…ん?え、あれ…何で?」







頭上から聞こえた声に反応し、


私は顔を上げると、


そこには私を見下ろす大和がいた。








「京也といたんじゃないの?」







「トイレ行って今戻ってきた」








あ、そう。


大和といえば京也と思ってたから、


さっきの群れの中にいたような気がしていた。


別に私のことは放っておけば良いのだけれど、


なぜか大和は動かず、私を見下ろしている。








「私のことはお気になさらず、中へどうぞ」






少し疲れが落ち着いて立てそうだ。


大和が中へ入ったら…。








「行くぞ」






「っは…ちょっと、待って…!」






突然の出来事。


大和は私の腕を掴み、


立ち上がらせる。


私は勢いよく引かれた手に従って


体を起こす。








「飯、行くだろ」






「いやそうじゃなくて、中に京也たちが、」






「いいだろ。女たちといるんだろ、面倒だ」







どこまでも勝手な男は、


昨日や朝のことは何もなかったように、


私を連れ出した。






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