そこには、君が
「美味しすぎる」
「頬張りすぎだろお前」
急いで食べる私を見て、
大和は笑った。
豪快に笑った。
これも食え。
あれも食え。
買ったあれこれを私に食べさせる。
これは大和の常套手段。
私の機嫌を取ろうと、必死なんだ。
「大和さ、」
ふと昨日のことを思い出す。
大和への周りの印象。
何もしていなくても悪く言われるこの人は、
絶対損してる。
「もっと笑ったりしたら?」
「なんで」
「きっとみんな誤解してるし、変な噂とか嫌だし、」
あることないこと言われて、
変な疑いかけられて。
何もしていない大和が、
悪く言われるのを見たくない。
そういう思いで伝えると、
答えはやっぱり大和だった。
「意味ねえだろ」
急に私の腕を掴み、
力強く握りしめると。
真っ直ぐ私を見て。
「分かる奴が分かってりゃそれでいい」
分かる奴。
それが誰かなんて、
聞かなくても分かってる。
「ふーん、」
そう言われて、モヤモヤした。
自分で言っておきながら、
みんなに笑いかける大和に
イライラした。
近寄る女子に優しくする大和を、
見たくないと思った。
思ってしまった。
「ばーか」
少し気付いてしまった気がする。
気付かないようにって、
思ってたんだ。
「んだよ」
「何でもありません」
この想いの名前に少し気付いたけれど。
そんな訳ないと思いたかったんだ。
ドキドキするそれも、
変に悩んでしまうあれも、
全部全部気付きたくない。
「アイス、食べたいです」
「買いに行くかデブ」
「腹立つから奢りね」
大和を残して私は公園を出た。
後ろから追いかけてくる大和から、
私は逃げる。
分かる奴が分かればいい。
そうだ、私が分かっていれば、
それでいいんだ。
誰にも知られたくない。
ふと、そう思ってしまった。