そこには、君が






「美味しすぎる」






「頬張りすぎだろお前」






急いで食べる私を見て、


大和は笑った。


豪快に笑った。


これも食え。


あれも食え。


買ったあれこれを私に食べさせる。


これは大和の常套手段。


私の機嫌を取ろうと、必死なんだ。







「大和さ、」







ふと昨日のことを思い出す。


大和への周りの印象。


何もしていなくても悪く言われるこの人は、


絶対損してる。








「もっと笑ったりしたら?」







「なんで」







「きっとみんな誤解してるし、変な噂とか嫌だし、」







あることないこと言われて、


変な疑いかけられて。


何もしていない大和が、


悪く言われるのを見たくない。


そういう思いで伝えると、


答えはやっぱり大和だった。







「意味ねえだろ」







急に私の腕を掴み、


力強く握りしめると。


真っ直ぐ私を見て。









「分かる奴が分かってりゃそれでいい」






分かる奴。


それが誰かなんて、


聞かなくても分かってる。






「ふーん、」







そう言われて、モヤモヤした。


自分で言っておきながら、


みんなに笑いかける大和に


イライラした。


近寄る女子に優しくする大和を、


見たくないと思った。


思ってしまった。







「ばーか」






少し気付いてしまった気がする。


気付かないようにって、


思ってたんだ。








「んだよ」






「何でもありません」






この想いの名前に少し気付いたけれど。


そんな訳ないと思いたかったんだ。


ドキドキするそれも、


変に悩んでしまうあれも、


全部全部気付きたくない。







「アイス、食べたいです」






「買いに行くかデブ」






「腹立つから奢りね」







大和を残して私は公園を出た。


後ろから追いかけてくる大和から、


私は逃げる。


分かる奴が分かればいい。


そうだ、私が分かっていれば、


それでいいんだ。


誰にも知られたくない。


ふと、そう思ってしまった。







< 202 / 325 >

この作品をシェア

pagetop