そこには、君が
プルルルル…と3コール鳴る。
4コール目に突入しそうな時。
電話の向こうから声が聞こえた。
『もしもし』
「もしもしじゃないよ、ばか男」
『は、なんだお前』
笑っている大和。
ばかと呼ばれて笑うとか、
相当ばかなんだと思う。
「506号室、向かってるから!」
『いやお前、それは…』
「うっさい、行くから。鍵開けて待ってて!」
いつもとは逆に。
私から勝手に電話を切った。
今、抱いている感情が何であるかは、
どうでもいい。
大和に会いたかった。
勝手に人のために喧嘩して、
1人寂しく部屋にこもっている大和に、
会いたかった。
「ここだ…」
エレベーターを降りると、
いると思っていた先生は誰1人いない。
男子生徒すら1人も見当たらない。
長く続くロビーの先、
506号室であろう場所から
ばかが1人顔を出している。
「まじで来たのか、お前」
「中入れてっ…わっ、」
こんなに思い切り走ることなんて、
なかなかない。
足がもつれて上手く動かない。
それでも早く前に前にと、
気持ちだけが先に向かっていた。
入り口にいる大和を押す形で部屋に入ると、
自分の思っている部屋への入り方と、
実際が違いすぎて、思わず躓いた。
「危ねえだろ、お前っ…」
息が切れて、肩が上下に動く。
そんなに疲れてはいないのに、
普段の運動不足が物を言っていた。
「だって、大和が…悪い、」
「何言ってんだお前」
転んだ私を、抱き止めた大和。
抱きしめたまま、動かなくなった。
「あ、りがと…」
気をつけろ、と一言頂き、
私は体勢を整える。
大和は無言で部屋の奥へ行く。
私はすかさず追いかけて、
大和の背中を叩いた。