そこには、君が





「いやだから、痛えって」






「何が痛いよ、ばか!何で抵抗しなかったの!」






支離滅裂。


言っていることが間違っているのは、


重々理解している。


だけど悔しいじゃない。


自分のせいで騒動が起きているのに、


私は何も知らずに楽しんでいて、


他の人が迷惑を被っているなんて。








「抵抗する価値もねえだろ、あんな奴」







「そうかもしれないけど…!何殴られてんのよ、もう…」







大和の口元は少し切れていて、


赤黒く腫れ上がっている。


私はそっと頬に手を伸ばし、


傷口に触れた。







「なんで喧嘩したの?」






「…何でもねえよ」







そう言うのは分かってたけど、


聞かずにはいられなかった。






「何でか、言ってくれてもいいじゃん」






「お前には関係ねえことだ」






「とか言って。私のためでしょ?」







ふざけてみた。


言ってやりたかった。


そう言って困らせて、


焦る大和が。








「っ…、は?お前のために喧嘩なんかしねえよ」







見たかったんだ。







「嘘。私のためだ!って、大声で叫んでたって聞いたけど?」







「誰だ、んな事言った奴。殺す」







大和は私の頬を掴み、


グイッと上に向けた。


私は抵抗しながら笑い、


静かになった大和に異変を感じて


目を開けた。








「…お前、まだあの男と連絡取ってんの?」






「あの男って、徹平のこと?」






黙って頷く大和は、なんだか子どもみたいで、


素直に可愛いと思った。







「そんな訳ないじゃない。あれっきり、おしまいだよ」






「あっそ」







自分で聞いてきたくせに、


素っ気なく頬から手を離す。


そして黙って私の手を握ると、


部屋の奥へと導いた。


久しぶりに繋いだ手は、


少し緊張している。


今までは大したことではなかったのに。


そんなこと、普通だったのに。






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