そこには、君が

さん






修学旅行が終わって、


あっという間に普通の生活に戻った。


大和は被害者なのに、


修学旅行明けから3日間の謹慎。


家に様子を見に行くとそこにはいなくて、


お母さんに聞いたらバイトに行ったと言っていた。


呑気な顔で学校に戻ってきた男は、


相も変わらず寝てばかりだ。


それから2週間という時間は過ぎ、


6月上旬、明日は私の誕生日だ。








「明香、はいこれ!」






「え、何…」







昼休み。


凛は人気のない場所で大きな紙袋を出した。


私はリボンのついているそれを、


恐る恐る手にする。








「何って、明日誕生日でしょ!」






「あ、そうだった!」







開けてみてと言われ、


リボンに手を伸ばす。


中に入っていたのは、


エナメル素材の少しヒールのあるパンプスだ。









「えええええええ!これ欲しかったやつだ!」








「でしょ?もうバレないようにするの必死だったんだから!」








何回か凛と買い物をする中で、


毎回欲しいと思いつつ、


手を出せなかった代物。


凛の思いやりに、感動して涙が出た。








「あとは手紙!いつものお礼だよ!」







「ありがとう〜!めちゃくちゃ履くし、めちゃくちゃ大事にするね!」







ずっと眺めていたかったが、


もうすぐ午後の授業が始まるので


教室へ戻ることに。


ふと疑問に思った。








「でも、何で今日?」







「だって!明日は永森くんに誘われてるんでしょ?」







「…あ、そうだった!」








あんなにウキウキして凛に話していたのに、


当の本人である私がすっかり忘れていた。


明日、空けとけって言われたんだった。








「…でも、何も言われてないや」







「…流石に忘れてることはないと思うけど、」







帰りにこそっと聞いてあげるよ。


凛はそう言って、私の肩を叩いた。


頼もしい凛の言葉に胸を撫で下ろすも、


不安は募るばかりだった。










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