そこには、君が






「も…っ、もしもし」





緊張した第一声。


喉の奥が渇ききっていて、


上手く声にならない。


電話の向こうの大和は、


なぜか息を切らしていた。








『おまっ…なん、で…』






「大和?え、何?」






何かを言いたげな大和は、


息を切らしながらも言葉を紡ぐ。









『何で言わねえんだよ、ばか!』







「何が?何を?」







『今日、誕生日だろ!何でもっと早く言わねえんだよ…!』








誕生日というワードを聞いて体が熱くなる。


どこからその話題を手に入れたのか。








「だって、忘れてるなら、もういいかなって…」








『勝手に決めんな!まあ…勘違いしてた俺が悪いんだけど。んなことはどうでもいい』








自分の間違いは認めつつも、


それはいいと棚に上げるあたり、


やっぱりさすが大和だ。







「大和?何で、息…」







『んなの、決まってん…だろ、』







息を整えるためか、


飲み込む音さえ聞こえる気がした。


一息ついた後、落ち着いた声で。








『お前に会いに行ってるから』







そう言った。


私に会うために、走ってるの?


そう聞きたくて聞けなかった。


もう何を言っていいか分からなくて、


黙って大和の言葉を聞いた。








『あと5分で着くから、待っとけ』







切られた無機質な音が、


メロディに聞こえた。


いつもなら勝手に切られて、


腹を立てるのに。


今日はちょっといつもと違う。


急に静まり返った空間に、


私の心音が鳴り響いているような、


そんな気がする。


とにかく私は手当たり次第の服に着替え、


到着する大和を待った。


あと3分。あと2分。


どれだけ時計を見ても、


一向に進んでいる感覚はない。


だけど針は確実に動きを進めている。


今か今かと待ち続けた。


大和との電話から7分後。


家のインターホンが鳴った。









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