そこには、君が
「その女はそれ以来何も言わなくなって。だから何とかして振り向かせてやりたくて、必死に練習したんだ」
「知らなかった…」
「だろうな。必死にやってる所とか、見せられるわけがねえ」
大和が必死に頑張ってる所なら、
一度見てみたかったけど。
なんて思いながら、
やっぱり想像したら笑ってしまった。
「あははっ…、ごめん、笑ってっ…」
「好きなだけ笑えばいいけど」
恥ずかしそうにする大和を見ながら、
可笑しくて腹を抱える。
誰の言葉に振り回されたのか知らないけど、
面白すぎる。
「でも、大和がっ…頑張ってるとこ、見たかったけどねっ…はは、」
1人笑っている私を大和はじっと見て。
すこぶる優しい声で。
「明香」
名前を呼んだ。
私はそれに驚いて、
笑っていた口を開けたまま固まった。
「その女のこと、何とか手に入れたかったんだ俺は」
大和がその女の人のために頑張った、
バスケも、スケボーも、サックスも、
私が大好きな音たちだ。
さっき大和は、この場所で、
練習してたって言ってた。
もしかしたら、と。
思わずにいられない。
その時、思い出したあの瞬間。
それは徹平との最後の電話をしたあの日。
最後に来たメールに書いてあった言葉。
徹平が公園にいる人は自分だと偽っていたことに
対して、真実を告げてくれたこと。
正体は、幼馴染くんでした、って。
そういえばそう言ってた。
私は息が止まるかと思ったんだけど、
それでも本当かどうかも分からなくて、
真実かどうかを確かめるのも怖くて、
見ないフリをしたんだ。
「ね…、待って大和、あの、」
大和の次の言葉を聞くのが怖かった。
恐怖という怖さじゃなくて、
真実を知った時に何かが
変わるんじゃないかって、
そう思って。
今まで逸らしていた事実が目の前にある。
私がずっと憧れ続けた相手は、
私のずっと近くにいた人だったんだ。
「悪いけど、」
大和はぐんと近付いてきて。
私の腕を優しく握った。
「待てない」
いつもの大和じゃ、ない。
そう思った。