そこには、君が
「凛!」
遠くからでも分かる凛の姿。
Barは定休日の日なのか、
店内は真っ暗で灯り1つ付いていない。
「凛、どうしたの!何?何で泣いてるの?」
「今日春太と遊ぶ約束してて…っ、ここで待ち合わせてたら…っ、先に春太がいて、」
泣きながら話す凛に耳を傾ける。
凛の目からは涙が止まらない。
「声かけようとしたら、急に女の人が現れて…」
「うん、それで?」
「急に抱きしめて…っ、キス、しててっ…」
意味が分からない。
待ち合わせにしていたこの場所に、
別の女が現れて、
抱きしめて、キスをして、って。
「嘘でしょ…、春太さんが?」
「あれは絶対春太だった。何でなの…?何で、他の…っ、」
凛が泣くのも無理はない。
誰だって目の前でそんなことあったら、
信じられないし、泣きたくもなる。
「それで、春太さんは?」
「女の人に手を引かれて…、どこかへ行った、」
今にも泣き崩れそうな凛を、
このままにしておくわけにはいかない。
私はとにかく場所を移そうと、
凛の肩を抱いた。
その時。
「明香!」
走ってきた人が私を呼んだ。
聞き覚えのあるその声を、
私は知っている。
すぐに分かって、
後ろを振り向くと、
そこには思った通りの人が立っている。
「徹平…なんで、」
「心配で、様子を…見に来たんだけど、」
息を切らした徹平は、
私たちの前で膝に手を付きながら
呼吸を整えている。
「凛ちゃん、ごめん。春太とのこと、俺のせいだよね?」
話が読めずに立ち尽くす私の後ろから、
泣きながら話す凛の声がする。
「徹平さんが、悪いんじゃないんです。ただ私が…」
「俺のせいだ。本当にごめん!でも、春太は何も悪くないから!信じてやってほしい!」
徹平は凛に向かって、
深々と頭を下げている。
凛は首を振りながら、
違うと言い続けている。
話が読めず、ただそこにいる私に、
電話が来た。
ゆっくり携帯を見ると、
大和だった。