そこには、君が






「もしもし」





『どうなった?凛は?』





「あ、今一緒にいるよ」







野生の勘だろうか。


急に大和は。








『2人でいんのか?』







鋭い質問をしてきた。








「うん…2人、だよ」







そう言って顔を上げると、


目の前にこっちを見ている徹平が


何かを察したかの表情をしている。


徹平の存在は、ないことに。


どうしても大和に伝えるわけにはいかなかった。








『京也も来てる。お前の家に行くから、早く連れてこい』








「うん、分かった。待ってて」







通話を終えると、


私は凛の肩を抱きしめ直した。










「徹平、ごめん、ゆっくり話してる暇なくって、」







「ああ。気をつけて帰ってな」







どうしてそこに徹平が来たんだろう。


訳も分からず、凛の手を繋いで、


家へと向かった。


背中に感じる徹平の視線が、


痛々しいほど伝わった。









「凛ちゃん!」






京也の声がエントランスに響く。


マンションのエレベーター前で、


私たちを待っていた2人。


すかさず京也が駆け寄ると、


凛を引き寄せて抱きしめている。








「良かった、無事で」






「男は?どういう状況だ」







「部屋で話すよ。とりあえず帰ろう」







そう言って無理矢理エレベーターへ乗り込んだ。


沈黙の空間の中、京也はずっと、


凛の肩を抱いてくれている。


家に入ると私はすぐにお湯を沸かし、


凛に温かい飲み物を差し出した。







「凛、何があった」







「…彼氏が、浮気してたみたいで、」






「は?ちょっと待って。彼氏って、前から付き合ってるあの大学生だよね?」








珍しく、京也が声を荒げる。


いかにも怒っていますという表情だ。






「浮気とか最低だろ」






「何で浮気と思った?何かあったのか?」






いつになく親身な2人に戸惑いながらも、


凛は一生懸命伝えている。


そのやりとりを黙って見ていた時。


ポケットにあった携帯が、震えた。


話の途中で音が鳴ったら、と


マナーモードにしていたから、


音は発さず震えで訴えている携帯。


誰だろう、こんな時間に。


私は静かに携帯を見ると、


驚かずにはいられなかった。






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