そこには、君が
「本当に女かよ」
大和の一言に、
詰まらせながらも、
嘘を付き通す凛。
「いくつの人?どこの人?」
「20歳で、近くの大学2年生の人」
どこまで気にするのか、
2人は黙ったまま考え事をしている。
何か言わなくちゃ。
咄嗟に出た言葉が。
「私とか凛のこと…2人に関係ない、じゃん…」
そんな一言だった。
本当はそんなことが言いたかった
わけじゃない。
きっと心配してくれていて、
それを私は分かってるつもりで。
なのに、凛を巻き込んでいることとか、
私を守るために嘘を付いてることとか、
何もかもが申し訳なくなっちゃって。
「は?お前、それ本気で言ってんの?」
「ほ…本気、ですけど」
余計、事態を悪化させた。
瞬間で分かった。
でも、戻れなかった。
「お前、まじで知らねえぞ」
「別にいいよ」
「大和、落ち着けよ」
きっと大和は、
本当に怒ってると思う。
顔を見たら分かる。
何も言わない私に、
きっとイライラしてる。
「何で大和が怒るのよ。いいじゃん、別に。ほっといて」
「あ?明香、いい加減にしろよ」
大和はいつも、
分かってくれようとする。
本当はこの時だって、
留まろうとしてくれた。
なのに私はいつも。
「話すことなんてないよ。大和うざい」
意地っ張りだから。
言いたくないことも、
思ってないことも、
全部全部口に出しちゃうから。
「意味分かんねぇ」
大和はそう言い残すと、
机の上にあったメニュー表を
全部、床に投げつけた。
大きな音と共に、大和は
誰もいない隣の席を力いっぱい蹴り、
お店を出て行った。