そこには、君が
それだけ聞けば察しはつく。
きっと大和と付き合ったことをネタに、
お母さん同士で電話でもしたのだろう。
そこから伝わることを、
微塵も考えていなかった。
「…そう、です」
「何で言わなかった?」
「何で、っていうか、その…」
ちゃんと言おうとしてた。
どうやって言えばいいか分かんないし、
納得してくれるかとかも分かんない。
言葉も選ばないと、とか、
タイミングも大事だな、とか。
それに。
行きたくなくなっちゃうと、思ったんだよ。
「真っ先に言うだろ!そんな大事なこと!」
私に対して、
こんなに怒っている大和を、
初めて見たと言っても過言ではない。
今までは大抵、どんなことも、
何とか丸く収まった。
心配かけた時も、八つ当たりした時も、
結局は笑って終わった。
「もういいわ、お前。話す必要もねえな」
「待って。ちゃんと言うつもりだったし、1番に…」
この男がこうなったら、
言い訳は通用しない。
「言わなかったのが事実だろ。もう帰れ」
「ねえ、待って。本当に言おうと思ってたの。でも、」
私はその場から立ち上がり、
大和の側に駆け寄って座る。
袖を引っ張り、
ごめんと謝りながら必死に食らいつく。
が、抵抗虚しく。
「冷静になれないから、帰ってくれ」
「…ごめん、なさい」
こんなに怒ると思わなかった。
言えよ、くらいで終わると思ってた。
私が、事を甘く見過ぎていた。
「っ…、」
私は心が痛くなって、
振り返らずに大和の家を出た。
今までだったら。
ただの幼馴染のままだったら、
こんなに苦しくない。
むしろ怒っている大和に怒っている。
勝手に怒っていることに私がキレている。
だけど、今は違う。
怒るというより、悲しい。
怒らせてしまったことも、
きっと傷付いていると想像がつくことも。
全部全部、悲しいと感じる。