そこには、君が





家に帰ると、


置いていった携帯が鳴っている。


着信の相手は凛で、


おそらく何かしら連絡が入ったんだろう。







「もしもし…」






『明香?!良かったぁ。電話に出ないから。大丈夫?』






凛にだってまだ言えてない。


もうこんなことになるなら、


躊躇わずにすぐ言えば良かった。








『津田くんから連絡あって、今日の夜無しって言われて!何かあったと思って電話したんだけど、』






「私が悪いの…ごめん、凛、」





『とにかく今家に向かってるから!待ってて!』







一方的に電話が切られた。


もう言ってしまおう。


凛にもガッカリさせたくない。


せめて凛には自分の口から伝えないと。


それから20分経って、


インターホンが鳴った。


鍵を開けるのと同時に、


凛が雪崩れ込んでくる。








「明香ぁ!大丈夫?どうしたの!もう、何?喧嘩?」






私に息つく間も与えないスピードで、


心配の言葉をかけてくれる。


私は部屋の中へ招き入れ、


飲み物をグラスに入れて差し出した。







「凛、あのね…」






前傾姿勢な凛は、


必死に私の言葉を聞こうと


耳を傾けてくれている。


私は全て話すことにした。


昔から通訳の仕事に興味があって、


海外で英語を習いたいと思っていたこと。


両親が今、海外にいることもあって、


留学も視野に入れていたこと。


この前、母親と連絡をとった時に、


手続きを進められていたこと。


高校を卒業したら、留学すること。







「そうだったんだ…」






「遅くなってごめん。でもちゃんと形になってから、言おうと思ってたの」






それを母親同士の話で伝わり、


大和の耳に入ったこと。


何で言わないんだと怒っていて、


さっき喧嘩になったこと。


それも全て伝えた。







「大和に、言えなくて…」






「うん分かるよ」







ずっと優しく手を握りながら、


私の言葉ひとつ漏らさずに聞き取ってくれる。







「だけど、」






凛はそう言うと、


握っていた力を少し強め、


私の目を真剣に見つめた。






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