そこには、君が
「…ん?誰だ?」
覗き穴から向こうを見たが、
そこには誰もいない。
こんな朝早くに、何事か。
そう思いながら恐る恐るドアを開けた。
「悪かった!!!」
「え、ちょっと…大和っ、何してるの!」
覗き穴から誰も見えなかった原因は、
ドアの前で大和が土下座をしていたから。
「明香!もう本当に悪かった!」
「やめてよっ、恥ずかしいから…っ!」
近所の人が見たら、
何が起きたのかと思われる。
私は力づくで大和を引っ張り、
家の中に入れた。
歩きながらずっとずっと謝り続ける大和。
「本当にごめん」
大和は部屋の中に入るなり、
ずっと土下座をしている。
制服を着たまま、
床に手をついて。
「謝る意味分かんないけど」
「勝手にキレて、酷い態度だったから」
…今までも同じようなこと、
ありましたけどねー…。
なんてこと言えず、
ひれ伏す大和に駆け寄った。
「もう大和が謝ることじゃないでしょ。私が悪っ…」
起こすために手を握った時。
大和はそのまま自分に寄せて、
私を抱きしめた。
「焦った」
「焦ったの?何に?」
力強く、深く深く抱きしめられて。
いなくなったらどうしようって、って。
そう言われた瞬間、胸が締め付けられた。
甘すぎる。
「いなくなんないよ」
「俺、優しくするって決めたのに」
そんなこと、1ミリも知らない。
私はくすぐったくて、
背中が痒くなった。
そして特段、愛しい。
「でも本当、悪いのは私だよ」
「あんだけ怒ってて、俺だって先のこと言ってねえと思ってさ」
先のこと。
大和の将来の話、
そういえば聞いたことなかったっけ。
私は大和の夢を聞いた。
「建築関係に携わりたい」
それは、大和のお父さんの影響か。
大和のお父さんは、建築士として、
雑誌にも載るほど有名な人だ。
自営業なこともあって、
お母さんとあちこち走り回っている。
そんな両親の姿を見て、
憧れたのだと、キラキラした目で話してくれた。