そこには、君が
「うっわ、綺麗!」
少し日が沈み出した頃。
大和に連れられて行ったのは、
誰もいない海水浴場。
「泳ぐの?」
「そういう訳じゃねえけど、今年行ってねえなって」
ビーチには私たち以外に、
犬の散歩をしているおじさんと、
小さな女の子と手を繋いでいるお母さんだけ。
よく考えてみれば、
2人で海に来たことなんてなかったな。
「入ろうぜ」
「え、本気?」
呼び止めても聞く訳がなく。
大和は靴下を脱ぎ、
ズボンの裾を捲り始めた。
仕方なく私も靴下を脱ぎ、
大和に続く。
海に入る寸前。
陽がいい感じに沈んでいて、
大和の向こうに位置していた。
「手」
「ん、」
暴君大和が、紳士に差し出す手。
それはいつもではない出来事なだけに、
ちょっと気恥ずかしい。
「冷た、」
「水着持ってくれば良かった」
「入りたかったの?」
「どっちかって言えば焼きたい」
そんな会話をしながら手を繋ぎ、
片方の手で靴を持ちながら少し歩く。
夕日が綺麗に差し込んで、
少し儚い空気が漂っている。
「出来た、お城」
「崩壊寸前だなお前の城は」
途中で歩くのをやめ、砂遊びに徹する。
なんだか無性に遊びたくなった幼心。
「海ってどこまで繋がってんだろうって、たまに思う」
「先見えねえもんな」
2人並んで彼方を見つめる。
この先がどこかなんて、
誰にも分からないんだろうか。
「この海を超えたら、どこに着くのかな」
「んー、」
答えのない、不意な質問。
知らねって、言われると思っていた。
なのに。
大和は手に持っていたサングラスをかけると。
急に立ち上がって私を横目に見ながら。
「お前のとこじゃね?」
そう言った。
どうして私は、今までこの人を
意識せずにいられたのだろう。
もう苦しくて仕方ないくらい、
大和が好きになっている。
来年の春から離れることが決まっている。
本当にこの海を超えたら、
大和の元へ辿り着けるのだろうか。
そんなことを考えて、
突然悲しくなった私だった。