そこには、君が
さん
9月。
夏休みも終わり、
やっと学校生活に慣れてきた中旬期。
昼休みに先生に呼ばれて職員室へ行き、
担任のしょうもない用事に
付き合わされた後のこと。
校舎と校舎の間にある中庭を横切った時。
1人の男の人に声をかけられた。
「あの、すみません…」
目を細めながらこちらを見ている。
身動きが取れないようだった。
どこかで見たことある気がしたが、
名前が思い出せない。
「もし時間あったらでいいんですけど、」
「どうか、しました?」
「コンタクト、落としちゃって…」
だから身動きが取れなかったのか。
私はそれは大変と、
足元を気にしながら近寄った。
「コンタクトって、落とすと大変みたいですね…」
凛がコンタクト使用者だから、
よく落としたとかズレたとかで
喚いているのを聞く。
目も充血するし、
すごく辛そうだなと思いながら、
視力が良くて良かったとつくづく思っていた。
「僕も初めてで、」
「ん〜、どこだろう、」
地面は砂まみれだし、
あんな透明なもの簡単に
見つかるのかと半ば諦めていた時。
「あ!ありました!」
その人は急にしゃがみ込むと、
地面から何かを拾う動作をして
私に振り返った。
「あ、良かったです。じゃあ、」
目をパッチリと開け、こちらを見る顔が
見覚えのある人だと今更ながら気がついた。
同じ3年の黒田 朔空(サク)くん。
別館校舎で普段全く会わないが、
結構女子からの人気は高い噂を聞く。
確か勉強もトップクラスで、
国立大学を狙っているのだとか。
「君、名前は?」
「棚橋です」
「棚橋さんか。本当にありがとう」
でも私はこの人、あまり好きじゃないな。
笑顔も言葉も、なんか嘘っぽい。
話したこともない人に失礼すぎるけど。
「では」
私は愛想の1つも見せずにその場を去った。
別にここから関わることもないし。
それに女の子から嫉妬とかされたくないんでね。
なんて思いながら、教室まで走った。