そこには、君が






「また話そうね!」






黒田くんは私に手を振り、


その場にいた3人にも頭を下げると、


待たせていた女子の元へ走って行った。


急に何?


そんなお礼されるほどのこと、


してあげたっけ?


…最悪。


そう思いながら顔を下に向け、


もう誰とも目を合わせないようにした。







「あ、明香?これは、どういう…?」






「こここっ、これにはね!事情があったんだよ!ね?」






状況を知っている凛はもちろんのこと、


知らない京也まで庇ってくれている。


きっと2人から見える大和が、


相当怒っているんだろう。







「いや、あのっ…」






もうどうも弁解が出来ず、


大和に事情を説明しようと顔を上げる。







「言ってみろよ」






「あ、はい…」







試みた私の気持ちなど呆気なく無視され、


言われるがままに話をする。


昼休みにたまたま会って、


困っていたところを助けたこと。


しかも助けたようになってるけど、


私はただそこに行っただけで、


実際何かをしてあげた訳ではない。







「でもあの言い方だと、めちゃくちゃ何かしてもらったみたいな感じだったよね!」






「しかも距離近過ぎだろ。なあ、やま…と」






「……」






大和に振った京也ですら固まる始末。


めちゃくちゃ怒ってる。


もう空気で分かります。


何も解決してないまま帰宅。


大和は無言のまま帰って行った。


私は何もやましい事はないからいいけれど、


これから波乱になる気しかしなかった。


それから1週間が経ち、


もう関わることはないだろうと思っていた。


そんな私の予想とは全く逆の方向へ行くなんて、


誰が予想しただろうか。






「棚橋さん!」





「棚橋さん?」





「やっほ〜!棚橋さん!」






朝の登校時、お昼の購買、下校の時まで。


毎日どこかから現れて、黒田くんは私の名前を呼んだ。


誰と居ても構わず、手を振り続けた。


私は無視するわけにもいかず、


頭を下げる様子だけ見せた。


私には、全くこの状況がなぜ起きているかなんて、


1ミリも分からなかった。






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