そこには、君が





ネットにボールが擦れる度、


私の中の何かがとくんと動く。


弾む音を聞きながらぐるぐる考える。


私はいつもここで、


彼の音を聞くと素直になれる。


頭には、ずーっと大和のこと。


ここ最近ずっと学校にいなくて、


一緒にいない日々が続いてて。


いつもなら、ばか言いながら遊んでるのに。


いつもなら、用もないのに電話したり、


家に行ったりしてるのに。


私のせいで大和は怒って、


今はもう顔も見てない。





「大和、何してんだろ」





ココアが口の中を甘く犯す。


だけど温かさは、体に染みてくれない。





「ごめん、大和…」





口にする自分の気持ちに、


改めて寂しさを痛感する。


そうなんだ。私、大和に会えなくて


寂しかったんだ。


本当はごめんって謝りたくて、


素直に顔見て笑いたくて、


ばか言い合いたいのに。





「何で私ってこうなんだろ…」





名前も知らない彼は、


初めにシュートを入れたきり、


ボールはゴール枠に当たりっぱなし。





「あなたも調子、悪いんですね…」





見えない彼に声をかけながら、


鼻から出てくる涙も、目から


出てくる涙も拭く。


ちゃんと謝りたい。


素直にならないと。






「ロコ、ただいま~」




補習の後に凛とご飯を食べ、


結構遅い時間に帰宅。


ロコがしっぽを振って、


お出迎え。


と、同時に電話が鳴った。





「もしもし、お母さん」




『明香?今家?』





何だか深刻そうな声色で、


私の名を呼んだ。


滅多なことで電話してこないから、


逆に何事かと心配になる。




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