そこには、君が
「いいじゃん、出たら」
何が嫌なのか分かんない。
出て欲しいって言われることなんて、
誰にでもある訳じゃないのに。
「普通にだるい」
「大和〜!そこを何とか…!」
「俺ら3年最後だろ?絶対優勝したいんだって!な?」
慈悲の心もない大和は、
完全にヘソ曲げ状態。
本当面倒な男だ。
「じゃあ出たら何でもしてあげるよ」
1位獲ったらって言おうと思ったけど、
そう言ったらまた屁理屈立てて、
獲れるか分からないとか言い出しそうで。
「…言ったな」
「え、」
少しの沈黙の後、
大和は私の手を引っ張り、
耳元でこう言った。
「手縛り拘束プレイで手打つわ」
誰にも聞こえない声が届いてくる。
夢であってくれと願うばかりだが、
もう時はすでに進んでいく一方だ。
「は、そんなの…っ」
「何でも言うこと聞くって言いませんでしたっけ」
おちょくるような発言が、
私の反抗心を逆撫でする。
こうなるといつも、
見栄を張ってしまうんだ。
「…考える」
「それはつまり肯定ってことで」
交渉成立、ではないが、
大和はもうその気で、
クラスメイトに出場の旨を伝えた。
男子みんなには感謝され、
私は愛想笑いで返すことに。
「ありがとう、大和!」
「本当ありがとう!!!」
感謝されたのは束の間で、
みんなで決意が変わらないように、
大和をちやほやし始める。
待ってください。
私のおかげでしかないんですけど。
「絶対しない」
「決定事項は覆せないんで」
嬉しそうに笑う大和は、
そのまま男子の輪の中に溶け込み、
気付けばモヤモヤした私はその場に1人
取り残されていた。
「明香、出番!」
「ちょっと緊張するね、」
凛と出場する二人三脚。
私たち赤組は順調にバトンが回り、
気付けば1位に。