そこには、君が





「痛むか?」





「ん、」





大和はそう聞くと、


我慢しろよと私をお姫様抱っこした。






「ねえ!重いってば!降ろしてよ、ねえ!」





「だーまれってばか。放っておいたお前が悪いんだろ」






有無を言わさず。


大和は水道がある場所へ向かうと、


私を自分の膝の上に乗せ、


足を水道に向けるように言った。


どうしても痛いのが嫌で、


私は抵抗したが、


虚しくも反抗出来ずに終わった。






「そんなに痛えなら、キスでもしてやろうか」






「キスで和らぐなら、とっくに誰かとしてます」






強引さに苛立って、


そんなことを言うと、


大和はムキになって黙ったまま


水を出した。






「いーーーーーーったぁ、んんん、」





結構大きな傷なだけに、


洗う範囲も大きくなる。







「痛い分だけ俺に捕まれ」






「んんんんんんんっ、」





大和は私の傷を優しく洗うと、


保健室に備えてある白い清潔なタオルで、


そっと拭き取ってくれた。







「派手にこけたな」






「…勢い余って、」






手当てをしてもらう側になるなんて、


想像もしていなかったから、


変に気恥ずかしい。


大和はそんなつもりはないだろうけど、


触れ方が優しすぎる。






「終わり」





「ありがとう」






片付けを済ませてお互い黙ると、


窓の外から聞こえてきたのは、


体育祭の盛り上がっている声。







「ここからグラウンド見えるんだね」






「みたいだな」






小さくはあるが、現在パン食い競争中みたいで、


棒からぶら下がっている様々なパンに


必死に喰らいつく各色の選手たち。






「窓開けようよ」






暑くて咄嗟に手をかけた窓の鍵。


大和が勢いよく開けると、


風が一気に入ってくる。







「うわ、すごい」





「何が?」






ドラマで見た一光景。


保健室、風、カーテン、彼氏。


まるで少女漫画の一コマのようで、


一瞬で心がときめいた。







「漫画みたいだな…って、」






そう言って大和を見ると、


察していたのは、


私を何も言わずにじっと見つめていた。


無言の間も吹き抜ける風は、


カーテンを揺らしている。






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