そこには、君が
「温っけえ」
「いっぱい食べてね」
言われなくても分かっていそうな大和は、
箸を持つと黙々と食べ進める。
そんなに空腹だったのか、
箸を休めることを一切しない。
「そんなお腹空いてたの?」
「いや美味いから」
さらっと、褒める。
何がとか、どれがとか、
そんなことは言わないけれど。
「食べてくれてありがとう」
「礼を言うのはこっちだ」
こんなにも大和が喜んでくれるなんて、
思ってもみなかったから、
頑張って早起きした甲斐があった。
「ご馳走様」
「お粗末様でした」
手を合わせる大和に、
私は軽く会釈してみせる。
こんなにも自分の作ったものを
喜んで食べてくれることが
嬉しいなんて。
「すみませーん!」
すると後ろから、
バスケットボールが転がってきた。
呼びかけられて振り向くと、
ボールの持ち主であろう中学生くらいの
男の子が走ってくる。
「ボール、取っ…うわっ!!!」
そしてその男の子は、
段差に躓いて見事に転けた。
顔からいったような転け方。
「えっ!大丈夫?!」
私は驚きながらも腰を上げるが、
それよりも早く動いたのは、
大和の方。
「おい坊主、大丈夫か?」
「いたたたたた…」
様子を見ると血は出ていないが、
少し赤くなっている。
大和はその子を立たせてあげると、
手に持っていたボールを地面に付く。
「バスケの練習か?」
「はい…。来週メンバー発表があるので、自主練しに来ました」
その中学生はボールを上手く操る大和を、
キラキラした目で見ている。
直感で、バスケが出来る人だと、
感じたのだろう。
「お兄さん、バスケ出来るんですか?」
「いや、」
大和は否定をしようとしている。
それを私が。
「このお兄ちゃん、めっちゃ上手だよ!」
被せるように、大和を売った。
なんだか中学生の子が、
話したそうだったから。