そこには、君が
「どうせって思うことを止めたんだ」
男の子は、息を呑んだ。
「絶対俺が奪うって。何が何でもって、そう思った」
「何が、何でも…」
大和の言葉を反復する男の子の体に、
全てのワードが染み込んでいるように見える。
「絶対無理だと思ったら、それより先は進めねえ」
大和が言う全てが、私にも刺さる。
私が想うよりもずっと前から、
私を想っていてくれたことが痛いほど分かる。
「坊主。後は自分次第だろ」
「僕次第…」
大和は立ち上がると、
男の子の頭を撫で。
「絶対なれる。レギュラー、奪って周りの奴らを見返せ」
「はい!僕、絶対頑張ります!」
大和が1人の男の子の運命に携わった。
きっと、この男の子は、
また自分と同じような子に、
同じような言葉をかけるだろう。
「じゃあな、頑張れよ」
「ありがとうございましたー!!」
もう少し練習すると言う男の子を残し、
私たちは駅に向かう。
「大和、年下の子に優しいんだね」
「普通だろ」
大和が誰かの面倒を見るなんて、
初めて目の当たりにしたから、
なんか貴重な時間だった。
かけている言葉も眼差しも、
全部優しくて温かいものだった。
「どこで降りるの?」
「言いません」
言われるがまま電車に乗り、
空いていた座席に2人で腰をかける。
時刻は16時半。
意外にも公園で時間を過ごしていた。
「降りるぞ」
駅到着の直前。
停まると同時に立ち上がる大和を、
置いていかれないように必死に追いかける。
前を歩きながら後ろに向かって差し出される手に、
ぎゅっとしがみついた。
「もう着く?」
「まだ」
大和の顔が少し強張っている。
疲れが出たのか、
無口にもなった。
「疲れちゃった?」
「何で?」
「溜め息ついてるし、心なしか元気がない」
それに何の返答もなくて、
気にすんなと言わんばかりの顔で
前だけを見ていた。
駅から10分ほど歩いた先で、
大和は立ち止まる。