そこには、君が






「……これって、」





「受け取って」





大和は私に木箱の蓋を開けて見せる。


中には、細いシルバーリングがあった。


真ん中に小さなダイヤが付いている。







「いい、の…?」





大和は私の言葉を優しく包み込み、


立ち上がってなかなか受け取らない私に


痺れを切らしたのか自分で指輪を手に取った。


そして木箱をポケットに戻すと、


私の右手を取り。







「今はまだこっちで」





「…薬、指なの、」





「欲しいって、言ってたろ」






そう。


ずっと欲しいと思っていた。


どこかまだ付き合っていると


信じられなくて。


留学して離れる時もずっと不安で。


どうしたら、っていつも考えていた。






「俺のも付けて」





「はい」






そう言って受け取った大きな指輪を、


私は大和の右手の薬指にはめる。






「学校の時は首に付けること」






「じゃあチェーン買わないとね」






大和の計画に心を撃ち抜かれた。


こんなにも私のために、


してくれた大和が愛しい。







「あと、これ」





「鍵…?」





それは見たことのない鍵。


まさか、と大和を見上げると。






「部屋契約してきた」





何でこんなに用意周到なんだ。


私は驚きすぎて、言葉も出ない。







「この前一緒に見てたあの物件」





「え!本当!」






学校にも駅にも近くて、


交通も便利だしすごく住みやすそうな


場所を議論して話し合ったことがある。


その時の物件を、押さえてくれたらしい。







「しばらくはゆっくり遊んでいられねえと思うから」





「どうして?」






何も考えずそう聞くと。






「引越し。お前も行くんだからな」







そうだ。


留学の話をした時のことを思い出す。


1月から一緒に住もうって、


言ってくれていたんだっけ。


ということは、


この鍵は合鍵ではなくて、


本当の私の鍵なんだ。






「…嬉しい、」





「明香、」






指輪と鍵を交互に見ながら、


花束を抱きしめる私に。


大和は穏やかに微笑みながら、


優しいキスをした。


2人で過ごす初めてのクリスマスは、


この上ない特別な日となった。







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