そこには、君が
「何だよ。泣いてんのか」
「そうだよ、ばか!悪いか、ばか!」
「見てるこっちが寒いぞ」
「うっさい、ばか!誰のせいだと…っぷ」
俺のせいだろ。
そう言って、大和は、
道のど真ん中で私を抱きしめた。
自分も寒いのに、
私のために上着を脱いでくれて。
こんなに優しいのに、
私はこの期に及んでまだひどいことを言う。
「何、買ってきたの…」
「ミルクティーとか色々」
「私、ミルクティー好き…」
「だから買ってきたんだよ」
大和の腕の中は温かくて、
変に安心感があった。
帰るぞ、なんて言いながら、
先を歩く大和は、
お風呂上がりなのか、
髪が少し濡れていた。
「早く寝ろよ」
「うん。大和もね」
「また明日」
「明日、会えるの?」
私の家の玄関前で、
名残惜しさを残しながら
ばいばいする。
いつものことなのに。
少し寂しく感じたりして。
「明日で停学終わるから」
「もう喧嘩しないでね」
「はいはい」
大和は私にミルクティーを渡すと、
あくびをしながら階段を上がって行った。
そういえばごめんって言えてない。
だけど、いつものことかなんて。
言葉がなくても直っちゃう関係だもん。
それでいいよね、私たち。
大和は優しく、包んでくれた。
彼の優しさに甘えた私は、
この後に待ち受けていることを
知る由もなく。
ただ過ぎる時に身を委ねて、
ばかな私は、
いつか離れていく大和に、
気付けなかった。