そこには、君が





配達業者さんが帰り、


再び自分の作業スタート。


大きなベッドを買う余裕はないので、


少し広めのふかふかな布団を購入。


寝室にする部屋に敷く。


お風呂で使う用品はまとめて設置。


キッチンは追々というところか。





「明香、俺バイトだわ」





「えっ、もうそんな時間…!」





まだ余裕だと思っていたのに、


気付けばもう13時。


大和は今から18時までバイトに行く。







「片付け、また後で手伝うから」





「じゃあ大和の作業分、残しとくね」






なんて意地悪なことを言ってみせる。


大和は少し笑って、家を出て行った。


すぐに、と言われた鍵をちゃんと閉める。


もう実家の方の家には、


私の必要な荷物はない。


全てこっちに持って来れただけでも、


せめてもの救いだ。






「片付けちゃお」





大和が頑張っている間、


私はせっせと荷解きをした。


大和の私物はあまり触れないようにと、


ちゃんと区別はしている。


リビングの他に8畳の寝室と、


6畳の洋室、それにサンルームまで備えられており、


少し古めなことも会って、割と格安な物件だ。


とりあえず制服があれば学校には行けるし、


生活用品は全て設置完了。


私はそのまま、大和の帰りを待つことにした。






「カーテン、買わないとだ…」





窓の外を見ながら、


買い忘れていた物を思い出す。


外は真っ暗で、時計は18時半を示していた。


ガチャ、と鍵が開く音がして、


私は玄関へ向かう。






「ただいま」





大和のその言葉が新鮮で、


思わずおかえりと言うつもりが、


声に出せていなかった。


そんな私に大和は、


小さな箱を手渡す。






「何?」





「帰り道でたまたま見たから」






箱を静かに開けると、


そこには4種類のケーキが入っていた。


ショート、チョコ、チーズ、モンブラン。


どれも私の大好物であり、


見るからに美味しいのが伝わる。






「買ってきてくれたの?」





「荷解き、してくれてたんだろ?」






いってきますに、いってらっしゃい。


ただいまに、おかえり。


そして手土産。


何とも新婚さんみたいなやり取りに、


喜びを隠せない。






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