そこには、君が
「明後日、こっち出るからね」
『空港まではちゃんと迎えに行けるからね』
「分かったよ、お母さん。じゃあ出発前にメールだけ入れるから」
卒業式が終わって約5日。
2日後には日本を出発し、
両親の元へ行く。
時間の都合上、どうしても
その便でしか無理だということで、
半ば強制的に2日後なのである。
「大和、まだかな…」
大和は卒業してからすぐ、
就職先で仕事を始めた。
正式採用は3月末だというのに、
少しでも早く研修社員から正社員に
なりたいのだという強い本人の願望で。
だからこの1週間という私たちに残された
限りある時間ではあるが、ずっと一緒に
過ごせたという訳ではない。
おまけに明日も仕事、出発の日も仕事。
私に費やす時間はどうやら作っていないようだった。
「ただいま」
玄関のドアが開き、声が聞こえる。
不満を溜めてはいるが、
結局帰って来るのが嬉しいんだ。
「おかえりなさい」
「留守番ありがとうの品」
大和は手に提げていたビニール袋を
私の頬にくっ付ける。
それはとても冷たいもので、
少し体がビクッと反応した。
「え、アイス!」
「美味そうだから買った」
大和はこうしていつも、
私のために何かしら理由をつけて
褒美を手に帰って来る。
昨日は新発売のジュースで、
その前は駅前でオープンしたお店で
小さいポーチを買ってきた。
「後で食べようね」
「とりあえず風呂入ってくる」
1日中、荷造りをしながら掃除をし、
買い物の後、お風呂を済ませ、晩御飯を作る。
大和はそれを見事に食べ切ってくれるから、
文句の一つ言いようがない。
今日はパスタが食べたいと言っていたから、
お手製のボンゴレパスタを作ってみた。
「もうお皿に盛ってもいい?」
「もうすぐ出る」
曇りガラスの向こうにいる大和の声が
反響して聞こえてくる。
私はそれすら心地よくて、
度々入浴する大和を覗きに来ていた。