そこには、君が





「ちょっと濃いかも」





「いや美味いよ」






上がってすぐ座ると、


いただきますとだけ言って、


フォーク片手にパスタを頬張る。


この瞬間が何とも好きで、


静かに眺めているのは大和にはまだ


気付かれていない。






「そういえばさ、」






食事が済み、食器を一緒に片付ける。


皿洗いが済んだ後は、いつもティータイム。


少し暗がりな部屋で、2人でマグカップを持つ。


今日はベッドの上で並んで座りながら、


ゆっくりとした時間を過ごすことに。






「明日だけ休みもらえた」






「…えっ、本当?」





「ダメもとで言ってみたら、代わり探してくれて」






ダメもとで、ということは、


自分から休めるか聞いてくれたってことで。


もう出発まで一緒に過ごせないと思っていたから、


とてつもなく嬉しいが込み上げる。






「じゃあ、1日いれるの?」





「好きなとこ行ってやるから」






激甘な大和様が、


私に合わせてくれると言う。


今まで毎日一緒にいて、


何なら今の方が一緒に朝を迎えて、


一緒に夜を迎えていて、


ずっと一緒にいるのに。


それでも足りない気がしていた。







「どこ行きたい?」





「んー、ちょっと考えさせて」





「最後のデートだしな」






何気なく言った、大和の言葉。


それが思っている以上に、


私の心を抉る。






「最後、だね」





「あー、いやそういう意味じゃない」






最後、というワードから連想される、


終わりという意味合い。


もちろんそうではないことは、


分かってはいるが。






「もう、ごめん…泣くつもりは、」





「いや俺が悪い」






ベッドの上で抱きしめてくれる。


その心地すらも、あと2日経てば、


忘れてしまうのではないかと、


急に不安になる。







「大和、」






私から、なんて。


したことないけれど。


少しでも近くに感じたくて、


自分から顔を上げ、


触れるだけのキスをした。







「好き、」





「明香、お前っ、」





「滅茶苦茶にしてよ。壊れるくらい」






抱いて、と。


そう自分から言った。





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