そこには、君が




「大和の初恋っていつ?」




校舎の周りに続く舗道を歩きながら、


中学校の頃の思い出話を振る。






「小2の夏」




「え!誰?」





小学2年生の頃に初恋だなんて、


どんだけ無頓着に生きてきたんだと少し呆れる。







「なんかガサツで乱暴な女」





「そんな子、いたっけ?」





「いやお前だろ」






…普通に失礼なのに、


ときめいてしまうのは、


もう取り返しのつかない


病に侵されているのだろうか。






「今だから言うけど、お前結構人気だった」





「全然分からなかった」






私の小学時代は、至って普通、ではなく。


中学までずっと、いつも嫌がらせを受けていた。


それもこれも全部大和と京也の取り巻き。


幼馴染だから贔屓されているとか。


いつも男といて、気持ち悪いとか。


女子とは上手く関係性を築けず、


日常的に当たり障りのない会話しか


してこなかった。


悪口や暴言が聞き入れられなくて、


私自身でシャットアウトしていたから。







「悟られる前に牽制した」






「牽制って、強すぎでしょ」






笑っていられるのは、


大和や京也がいたことと、


凛に出会えたからだ。







「お腹が空いたので、いつものサボりスポット行きます」






「久々だな」






私たちはよく中学校を抜け出し、


近所の喫茶店に行っていた。


そこのマスターが気のいいおじさんで、


いつも私たちを匿ってくれていた。






「いらっしゃい」




今日もご健在で元気におられる姿に、


とても懐かしさを感じる。


高校に入って、ここが少し遠くなり、


なかなか足を運べず3年ぶりに


ようやく来れたのだ。






「AランチとBランチで」





注文を聞きにきてくれた人は、


当時からいるお姉さん。


私たちの間では、


この人はマスターの彼女で、


年の差のカップルだと勝手に噂していた。


そしてまた、このお姉さんが、


露出バリバリの色気ムンムンで、


私も密かに憧れていたこともある。






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