そこには、君が





「別に会いに来たわけじゃないから」




「あ、私じゃない…のか」





私じゃないのか。


と、肩を落としている自分に、


驚いた。


この人が会いに来た人が、


私じゃない。


それを知って、


不覚にも残念に思う自分。


…何、この感情。






「じゃあ…失礼します」





お誘い、断り続けていること。


ごめんなさい。


言おうか言うまいか。


悩んでいる刹那。






―――――――――ごめん。






「え…」





すれ違う瞬間。


力強く、だけど優しく、


私の腕を引っ張った。






「やっぱり会いに来た」





「やっぱり、って…」





真剣に言ってるんだろうけど。


やっぱり、って何。って。


思ったら可笑しくて、


笑いが止まらなくなった。


この時初めて、


人を可愛いと思った。






「これ、渡そうと思って」





そう言うと、ポケットから、


小さな缶を取り出すと。






「俺の好きなやつ」




「ココア?」





どこにでもある自販機の、


よく見かける、美味しいココア。


それを私に、くれる彼。






「私も好きです。ココア」





「真似すんなよ」





「でも、私が作るやつも美味しいですよ」





自慢げにそう言ってやると、


言ったな?と言いたげな顔で、


私を意地悪そうに見た。






「それ、今度作ってよ」





4人で遊んだ時にでもさ。


そう言われた瞬間、


私の思考がだめだと止めた。


私は好きな人がいるじゃない。


他の人にふらふらするなんて、


そんな私、大嫌い。






「多分無理だと思います」





作ってあげるくらい、いいじゃない。


きっと人はそう言うと思う。








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