そこには、君が
『もうすぐ飛行機乗んだろ?』
「ん、あと5分したらね」
周りには、同じ便に乗るであろう人が、
大勢集まってくる。
少し雑音が多くなる中、
電話の向こうの声だけは
鮮明に聞こえていた。
『お前勘違いしてるかもしれないけど』
「…勘違い?」
『俺も会いに行くからな』
勘違い、なんてしていない。
むしろ、そんなことを
考えていなかったから。
大和がそう言ってくれるとは
思っていなかったから。
だから、驚いて何も言えなかった。
『それに、こうやって電話もするし、お前が嫌でも毎日するし』
「毎日、してくれるの?」
『当たり前だろ。お前が拒否しても、何度でもかけてやる』
全部私の思いを汲み取った、
大和の冗談混じりの優しさだ。
『だからどこにいても、俺たちは大丈夫だから』
「…ん、」
『ずっとそばにいるから』
大和が言う言葉は、
何だって信じられる。
例え何万人が嘘だと分かる言葉でも、
私だけは信じていたい。
「私も…いるから、」
『離さないって、言ったろ』
搭乗まであと2分。
私は底尽きていた自信が、
段々と湧いてきた。
「ありがと、大和。私…」
『愛してる』
ズルい男は、最後までズルかった。
大和の愛してるは、
私をきちんと奮い立たせてくれた。
「私も。愛してる」
愛してる、を言うにはまだ幼いかもしれない。
だけど、それだけ相手を思っている。
私は、大和を愛してる。
もう何も怖くない。
その時、搭乗口が開き、
アナウンスが流れる。
『帰ってきたら、伝えたいことがある』
「伝えたいこと?」
『楽しみに、待っとけ』
「うん、分かった」
じゃあ、行くね。
その言葉を言うのに、
思った以上に時間がかかった。