そこには、君が
大和のこともあり、
徹平さんのこともあり、
たくさんのことがあり。
そしてその日は、
突然やってきた。
「明香、今日早く帰る日だっけ」
「うん。楽しみな日」
朝から、もう早く家に帰りたくて、
そわそわしながら家を出て来た。
今日は、何が何でも早く帰るんだ。
「ロコ、ただいまぁ」
ほぼ早歩き状態で帰宅。
帰りにスーパーで買ってきた
食材を、冷蔵庫に入れる。
お風呂を済ませ、簡単にご飯を食べる。
しばらくロコとゆっくりくつろいだ後。
いつもの時間になり、
私はキッチンに立った。
お湯を沸かし、マグカップに粉を。
冷蔵庫から牛乳を取り出し、
ホットミルクに。
母から教わったやり方で、
簡単に甘すぎないホイップを作り。
私の特製ホットココアが出来上がった。
「電気消さないと」
いつものように、部屋を真っ暗に。
窓際に座り、ココアを両手で包む。
一息ついた時。
低音を綺麗に伸ばす、
心地良いサックスの音が聞こえた。
名前も知らない曲ではあるけど、
私はもうその曲が大好きになる。
どうやって指を動かすんだろう、とか。
何でこの曲を弾くんだろう、とか。
そしてふと頭をよぎった、あの人の声。
"何で、その人に会いに行かないの"
本当に、気まぐれで。
ふと、覗いてみようかなって。
ただ、それだけだった。