そこには、君が
「綺麗な音…」
カーテンを開け、
窓を少し開けて。
向こう側にいる、
久しぶりに見た彼。
目の良い私でさえ、
すごく本当に見にくくて。
どんな人なんだろう。
どこの人なんだろう。
そんなことを考えて目を凝らせば。
「…ん?」
気のせいだと思った。
絶対私の勘違いだって。
思った、んだけど。
「嘘、」
向こうにいる、知らない彼は。
サックスをこちらに向けて立ち、
吹くのをやめて。
なぜか、こっちを、見ていた。
私は急いで窓を閉め、
カーテンを閉めた。
私を見ていたわけじゃないかもしれない。
だけど、もしそうだったら。
そんなことを考えてたら、
心臓がバクバク言い始めて。
この人に出会ってから、約半年。
今までこんなこと、なかったのに。
その時、ベッドの上に置いておいた携帯が、
勢いよく震え始めた。
「けけけ、携帯…、」
唇があわわと言うことを聞かない。
やっとことで出た言葉は。
『明香、お前今…』
「どうしよう…」
自分の心境を表す一言だった。
『何が?』
「あ、何でも…ないです」
慌てて敬語で話していることに、
言ってから気付く私。
「ご、ごめん。大和、まままた…明日」
大和の声は確かに聞こえていた。
だけど、それどころじゃなくて。
閉められたカーテンの向こうに、
まだいるのかと思うと、
高鳴りが止むことは無く。
「寝れないよぉ」
頭まですっぽり布団を被りながら、
さっきのシーンを思い返しては、
1人じたばた。
外が明るくなってもまだ、
寝られなかったのは
言うまでもない。